2025年05月28日更新
リスティング広告とAIの話

AI、特にGeminiやChatGPTのような生成AIの台頭は、インターネット検索エンジンの利用方法を大きく変え、それによってリスティング広告にも多大な影響を与えています。本コラムでは、AIがもたらすデジタルマーケティングの変化について、いくつかの視点から考察してみました。
「調べる」から「聞く」へ:AIが変えるデジタル広告の未来
インターネットが情報収集の中心となって以来、私たちは常に「検索」という行為に依存してきました。何かを知りたい時、何かを買いたい時、検索窓にキーワードを打ち込み、その検索結果ページ(SERP)の上部やサイドに表示されるリスティング広告は、デジタルマーケティングのメイン商材の一つです。しかし、この検索という情報収集のパラダイムが、生成AIの急速な普及によって根底から覆されようとしています。
「検索」から「質問」へ:AIがユーザー行動を変える
ChatGPTに代表される生成AIの登場は、人々の情報収集行動に劇的な変化をもたらしました。知りたいことを調べるためにキーワードを羅列し検索エンジンで「調べる」のではなく、友人に聞くように、または専門家からアドバイスを受けるように、AIに直接「質問する」ことができるようになりました。
この変化は、デジタル広告、特にリスティング広告にとって大きな意味を持ちます。ユーザーが検索エンジンにアクセスすることなく、AIとの対話だけで知りたい情報を完結させてしまうケースが増えています。例えば、あるレシピを知りたいユーザーがChatGPTに「鶏肉を使った簡単でおいしい夕食のレシピを教えて」と尋ねれば、AIは瞬時に具体的なレシピを提示します。その結果、従来の検索エンジンでは表示されていたであろう料理ブログやレシピサイト、食品メーカーのリスティング広告は、ユーザーの目に触れる機会を失ってしまいます。
SGE(Search Generative Experience)がもたらす「クリックしない検索」
この「検索」から「質問」へのシフトは、Googleのような検索エンジンにも変化をもたらしています。Googleが導入を進めているSGE(Search Generative Experience)では、ユーザーのクエリに対してAIが生成した要約が検索結果ページの上部に表示されます。
これにより、多くのユーザーが、検索結果に並ぶリンクをクリックすることなく、AIの要約だけで情報を得て満足するケースが増加しています。これは広告主にとっては大問題です。たとえリスティング広告のインプレッション(表示回数)があったとしても、ユーザーがクリックしなければ、ランディングページへの誘導にはつながりません。「クリックしない検索」が急増し、リスティング広告のクリック率(CTR)が低下する傾向が顕著になっています。広告主は、これまで検索結果のファーストビューを獲得するために争ってきた場所が、AIの回答によって占められる現状に新たな戦略を迫られています。
リスティング広告からLPへの設計は今後どう変わるか
従来のデジタル広告の設計は、リスティング広告をクリックさせ、特定のランディングページ(LP)へ誘導し、そこで情報提供やコンバージョンを促すという流れが一般的でした。
しかし、「調べる」から「聞く」、そして「検索」から「相談」へとユーザー行動が変化する中で、この設計には変化が求められると思います。どのようになるかは今の時点ではわかりませんが、起こりそうな方向性を想像してみました。
「回答」に最適化されたコンテンツ戦略:
LPやWebサイトのコンテンツは、単に情報を羅列するだけでなく、AIに要約してもらいやすい、あるいはAIがユーザーへの回答として引用しやすい形式で構成されるべきです。いままでのSEOにあたるものですね。いかにAIに参照してもらえるかは大きなポイントになりそうです。FAQ形式の充実、特定の疑問に対する明確な回答、比較情報など、AIがユーザーに提供する「回答」の質を高めるためのコンテンツ戦略が重要になります。
コンバージョンパスの再設計:
従来のLPで完結していたコンバージョン(購入、資料請求など)のプロセスも、AIアシスタントやチャットボットを介してシームレスに完了できるように再設計される可能性があります。ユーザーはLPに遷移せずとも、AIとの対話の中で予約や購入を完了させる、という未来も視野に入ってきます。
AIとの会話の中に広告枠を設ける:
AIの中に広告を表示することは誰もが想像する世界ですが、会話の流れ自体が個人情報ですし、AIとの対話で蓄積されたパーソナリティ情報の広告ターゲティングへの利用についての許可の取り方など様々な問題があり、国際的な取り決めを目指した議論もされているようです。このあたりはまた別の機会に紹介します。
まとめ
生成AIの進化は、デジタル広告に大きな転換期をもたらしています。単に広告枠を買い、キーワードに合わせたLPを用意するだけでは通用しない時代がすぐそこまで来ています。企業は、AIとユーザーの新たな関係性を理解し、その変化に対応した広告戦略とWebサイトの設計、そして顧客体験の提供を模索していく必要があるでしょう。
個人的には、日本のマスコミがネットメディアを敵視しオールドメディアと呼ばれていることと対比し、リスティング広告でビジネスを独占しているGoogleが、広告のクリック率を下げるSGEなどを積極的に行っていることは深い戦略的意図を感じます。時代の変化に対して、我々メディアやマーケターも対応していかなければ・・・頑張りましょう。