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2026年09月04日更新

勝つ前に、何をしている? ~智辯和歌山・中谷仁監督から考える、「準備」という仕事~

仕事では、どうしても「結果」に目が向きます。売上はいくらだったか。広告の反応はどうだったか。目標を達成できたか。でも、その結果が生まれるまでに、私たちはどれだけ考え、準備できているでしょうか。今回は、2026年夏の甲子園で2度目の全国制覇を果たした智辯和歌山・中谷仁監督の「準備野球」を入り口に、人を育てること、数字を見ること、仲間と考えること、そして仕事やマーケティングにおける「準備」について一緒に考えてみます。

甲子園優勝、ドラフト1位。そして、監督として再び日本一へ

2026年夏、智辯和歌山高校が5年ぶり4度目となる夏の甲子園優勝を果たしました。チームを率いたのは、中谷仁監督です。

中谷監督自身も、智辯和歌山の選手として甲子園に3度出場しています。1996年春のセンバツでは準優勝。1997年夏には主将として、学校初となる夏の全国制覇を経験しました。

そして同年、ドラフト1位で阪神タイガースへ。楽天、巨人でもプレーし、2012年に現役を引退します。

ただ、プロで残した数字だけを見ると、少し意外かもしれません。通算111試合、28安打、打率0.162。ドラフト1位という大きな期待から考えれば、華々しい成績を残した選手とは言いにくいでしょう。

その後、母校に戻り、2017年からコーチとして指導に携わり、2018年に監督へ就任。2021年夏に全国制覇を果たし、2026年夏には再び日本一になりました。

2026年夏終了時点で、監督としての甲子園通算成績は18勝7敗。不戦勝を含みますが、勝率にすると72%です。プロ野球出身の監督として春夏を通じて複数回の甲子園優勝を果たしたのは史上3人目。夏の甲子園を2度制した元プロ野球選手の監督としては初めてでした。

選手として日本一になり、プロでは思うような結果が出ない時期を経験し、今度は指導者として2度、日本一になる。

そんな中谷監督の指導を見ていくと、繰り返し登場する一つの言葉があります。

「準備」です。

「野村野球」は、「準備野球」だった

中谷監督がプロ時代に大きな影響を受けた指導者の一人が、野村克也監督です。

野村監督といえば、「ID野球」という言葉を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。相手を分析し、データを集め、頭を使って戦う野球です。

でも、中谷監督が野村監督から受け取ったものは、「データをたくさん集めること」そのものではありませんでした。

中谷監督は、野村監督から「野村野球とは準備野球だ」と教えられたことを語っています。

相手のデータを取る。練習する。走る。ミーティングをする。

それらは、やったこと自体に意味があるのではなく、次の試合で結果を出すために行うもの。

大切なのは、何をしたかではなく、「何のために準備したのか」なのかもしれません。

この考え方は、2026年夏の甲子園でも見られました。準決勝の横浜戦では、相手投手の投球傾向を分析し、「2ボールからはストレート」という傾向まで共有。その場面で実際にストレートを捉え、決勝3ランにつながりました。

もちろん、データがあれば必ず打てるわけではありません。それでも、「こうなるかもしれない」と準備していたからこそ、勝負の場面で迷わず動けたとも考えられます。

結果が出てから考える前に、結果が出る前にどこまで考えられているだろう。

これは、野球だけの話ではなさそうです。

広告も、「出してから考える」だけでいい?

広告や販促でも、実施したあとは数字を確認します。

  • 何人に届いたか
  • 何人がクリックしたか
  • 何件の問い合わせがあったか
  • いくら売れたか

結果が良ければ継続する。思ったような成果が出なければ、媒体を変える。クリエイティブを変える。ターゲットを変える。

もちろん、実施後の改善は大切です。

でも、「準備野球」という考え方から広告を見てみると、もう少し前まで戻ってみたくなります。

誰に届けたいのか。その人は何に困っているのか。競合は何を伝えているのか。これまで何に反応してきたのか。広告を見たあと、どんな行動をしてほしいのか。

広告を出すことは、マーケティングのスタートではなく、一つの「試合開始」なのかもしれません。

広告が表示される前に、すでに考えるべきことはたくさんあります。
同じ媒体、同じ予算でも、誰に何を届けるのかが違えば、結果は変わります。

「まず広告を出して、結果を見ながら考えよう」。それが有効な場面もあります。でも、試しながら改善することと、準備せずに始めることは、少し違います。

実行してから回すPDCAだけではなく、実行する前にどれだけ問いを持てるか。
そこにも、結果を左右する時間があるのではないでしょうか。

準備とは、「答えを教えてもらうこと」ではない

では、準備をするとは、正しい答えを事前に知っておくことでしょうか。

中谷監督の指導を見ると、むしろ逆の面があります。

選手自身に、自分には何が必要なのかを考えさせる。自主練習の時間を設け、練習メニューも自分たちで考える。さらに、日々のプレーや練習、学校生活の中で得た気づきを言葉にすることも大切にしてきました。

こうした指導から見えてくるのは、「教えないこと」そのものが目的なのではない、ということです。

自分で考え、選び、行動し、その経験からまた考えられる人を育てること。

これは、会社でのマネジメントにも重なります。

部下から「どうすればいいですか?」と聞かれたとき、経験のある上司ならすぐに答えられることもあります。その方が、目の前の仕事は早く終わるでしょう。

でも、すべての仕事で答えを渡し続けていたら、次もまた答えを聞かなければ進めなくなるかもしれません。

「どうすればいいですか?」に、「あなたはどうしたらいいと思う?」と返せているだろうか。

もちろん、何でも本人に考えさせればよいわけではありません。知識や経験が足りないときには、教えることも必要です。

教えるのか。任せるのか。一緒に考えるのか。

その選択自体も、上司にとっての「準備」なのかもしれません。

数字は、「答え」ではなく「次の準備」に使う

準備を考えるうえで、数字も重要です。

中谷監督は、プロ野球という数字で結果が示される世界を経験し、野村監督からはデータを使って相手を分析する野球を学びました。

だから、数字を軽視しているわけではありません。
ただ、数字を集めること自体が目的でもありません。

広告でも同じです。

CTRが上がった。CPAが下がった。問い合わせが増えた。

数字を見ることで、感覚だけでは分からなかったことが見えるようになります。
でも、本当に大切なのは、その次ではないでしょうか。

なぜ、その数字になったのか。何がうまくいったのか。何が足りなかったのか。次は何を変えるのか。

数字は、結果を眺めるためだけではなく、次の準備を変えるために使う。

そう考えると、データ分析の意味も少し変わって見えます。

ちなみに、中谷監督自身の野球人生にも興味深い数字があります。
プロ通算打率は0.162、28安打。一方、監督としての甲子園勝率は72%。
もちろん、選手としての数字と監督としての数字を単純に比較することはできません。

でも、一つの時点の結果だけでは、その経験がその後どう生きるのかまでは分からない。それを感じさせる数字でもあります。

誰か一人が、正解を持っているわけではない

ここまでの「準備」を、広告主と広告会社、媒体社の関係にも置き換えてみます。

広告主が広告会社や媒体社へ相談するとき、「専門家なのだから、答えを知っているはず」と思うことがあります。

もちろん、それぞれに専門性があります。

  • 広告主は、自社の商品やサービス、お客様について詳しい
  • 媒体社は、自社の媒体や読者、ユーザーについて詳しい
  • 広告会社は、広告設計や他の施策で得た知見を持っている

 

でも、「今回、何をすれば一番成果が出るのか」という答えまで、最初から誰か一人が知っているとは限りません。

市場は変わります。生活者も変わります。競合も動きます。昨日の成功事例が、明日の正解とは限りません。

だからこそ、それぞれが知っていることを持ち寄る。

「この媒体なら何ができますか?」だけではなく、「今回、誰を動かしたいのでしょう」「その人は今、何を考えているでしょう」「何を試せば、それを確かめられるでしょう」と一緒に考える。

答えをもらうための相談ではなく、一緒に準備するための相談。

そんな関係の方が、正解のないマーケティングには合っているのかもしれません。

「日本一、仲間を生かすチーム」

2026年の智辯和歌山には、もう一つ興味深いテーマがありました。

前年秋の敗戦後、中谷監督がチームに示したのが、「日本一、コミュニケーションを取る」というテーマです。そして、その先に見据えたのが「日本一、仲間を生かすチーム」でした。

選手同士が思っていることを言葉にする。練習中でも気づいたことがあれば伝える。自分の仕事が終われば、周囲に声をかける。

準備というと、一人でデータを調べたり、計画を立てたりすることを想像しがちです。

でも、チームで成果を出す仕事なら、「誰が何を知っているのか」「誰の力を借りるのか」まで考えることも準備の一つなのでしょう。

広告主、広告会社、媒体社も同じです。

自分たちだけでは見えないことがあるから、相手の知識を借りる。逆に、自分たちにしか分からないことは、きちんと相手へ伝える。

それぞれが持っている情報や経験を生かせれば、一人で考えるよりも、準備の質は上がっていきます。

「誰が正解を知っているか」ではなく、「それぞれが持っているものを、どう生かすか」。

強いチームを考えるうえで、そんな視点もありそうです。

ゴールの、その先まで準備する

中谷監督の指導を見ていると、「何のために野球をするのか」という視点も印象に残ります。

甲子園で勝つことは、もちろん大きな目標です。

でも、中谷監督が見ているのは、そこで終わる未来だけではありません。

高校を卒業したあと、大学野球、社会人野球、プロ野球へ進む選手もいれば、野球とは別の道へ進む選手もいます。中谷監督が見据えているのは、そうした次の組織でも必要とされる人を育てることです。

自身が高校時代に日本一を経験しながら、プロでは思うような結果を残せなかった。その経験があるからこそ、「高校野球で勝つこと」だけを育成のゴールにはしていません。

甲子園優勝という目標を本気で追いながら、その先の人生まで見る。

そう考えると、「甲子園優勝」は大きなゴールであると同時に、もっと長い時間軸の途中でもあります。

仕事でも、私たちは目の前のゴールを追います。

  • 広告なら、クリックや問い合わせを増やす
  • 営業なら、受注する
  • 販促なら、売上を増やす
  • マネジメントなら、部下に仕事を完了してもらう

どれも大切な成果です。

でも、クリックの先にはお客様がいます。受注の先には、その商品やサービスを利用する人がいます。仕事を終えた先には、その経験を次の仕事に生かす人がいます。

目の前のゴールだけではなく、その先で何を起こしたいのかまで考えて準備する。

そうすると、今やるべきことも少し変わってくるかもしれません。

勝つ前に、何をしている?

結果には、運もあります。どれだけ準備しても、思い通りにならないことはあります。

だから、「準備さえすれば必ず勝てる」という話ではありません。

それでも、結果が出る前にできることはあります。

  • 相手を知る
  • 自分たちを知る
  • 仮説を立てる
  • 周囲と話す
  • 自分で考えられる人を育てる

 

そして、実行したあとは結果を見る。数字を確かめ、なぜそうなったのかを振り返る。そこから何を学び、次に何を変えるのかを考える。

さらに、目の前の結果だけで終わらず、その先で何を実現したいのかを見る。

中谷監督の「準備野球」を仕事に置き換えてみると、準備とは単なる事前作業ではなく、考えることそのものなのかもしれません。

マーケティングにも、絶対の正解はありません。だからこそ、誰かから答えをもらうだけではなく、一緒に問いをつくる。仮説を立て、試して、数字を見る。そしてまた考える。

結果を見る。だから、その前を考える。そして、その先を見る。

準備と結果は、どちらか一方が大切なのではありません。結果が出る前にどこまで考えられたか。出た結果から何を学ぶか。そして、その結果の先に何を実現したいのか。すべてはつながっています。

次の「結果」のために、今、何を準備していますか。そして、その結果の先に、何を見ていますか。

「勝つ前に、何をしている?」。その問いは、目の前の結果だけではなく、その先まで考えるきっかけになるのかもしれません。

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